『はじめに』
ヒトの歯の乳歯は、前歯部分が12本、奥歯部分が8本の合計20本。
また永久歯は、前歯部分が12本、奥歯が親知らずを含めて20本(含めなければ16本)で、合計28〜32本あります。
乳歯は1歳頃から生え始めます。そして永久歯は、6歳頃から生え始めます。生えてきた歯は、乳歯や永久歯に関係なく、むし歯になるリスクを常に背負っています。しかも、一度むし歯になると自然治癒することはまず望めません。
ですので、歯がある限りむし歯になる可能性があるわけですから、必然的にむし歯治療というのは、歯科医院でも筆頭のあげることが出来るほどのメジャーな処置になってきます。
初期の段階のむし歯なら、痛みを感じることもありません。しかし、むし歯が進行してからですと、神経をとらないといけないほどの痛みを感じることもあります。
そのむし歯治療、歯科医師は漫然としているわけではありません。むし歯の進行度合いをみて、過剰にならなず逆に過少にもならない、適切に処置を行なうよう注意して行なっています。
そこで大切になってくるのが、むし歯の分類です。むし歯の分類は、むし歯の進行度合いに応じて定められています。そして、むし歯の進行度合いによって、治療方法が異なってきます。そこで、むし歯の進行度合いに応じた治療方法についてまとめてみました。
『歯の構造について、どうなっているの?』
むし歯の進行度を理解するためには、まず歯の構造を知っておかなければなりません。
歯は、歯茎から上の見えている部分を歯冠(しかん)、歯茎のしたの部分を歯根(しこん)といいます。そして、歯冠と歯根の境を歯頚部(しけいぶ)といいます。歯冠と歯根では、その構造はかなり異なります。
「歯冠の構造について」
①エナメル質
歯冠は、最も表側の部分をエナメル質という非常に硬い層で覆っています。エナメル質の硬さは、人体の中で最も硬い(水晶と同じ程度)といわれ、実は骨よりも硬いという特徴を持っています。しかし、骨が常に新しい骨を作って古い骨を吸収して置き換えていることに対し、エナメル質はそういったことは行なわれていません。
②象牙質
エナメル質の内側は、象牙質(ぞうげしつ)とよばれる部分になります。この象牙質は、歯根まで続いており、歯の大部分を占めています。
③歯髄腔
象牙質の内部には、歯髄(しずい)、いわゆる歯の神経があります。ただし、歯髄は歯の神経だけがあるのではなく、血管もあります。この歯髄がある空洞を歯髄腔(しずいくう)といいます。なお、歯はこの血管を通して栄養を受け取っています。免疫系の細胞もここを通して運ばれます。この血管は歯にとってとても大切なものです。
「歯根の構造について」
歯根は象牙質から出来ています。歯根部の象牙質の内部にも歯髄腔があり、歯髄が歯の根の先からのびてきています。なお、歯の根の先のことを根尖(こんせん)といいます。
歯根の表面にはセメント質という部分がありますが、こちらは歯の構造ではなく、歯周組織とよばれる歯を支えている組織の構造の一部に含まれています。
『むし歯の分類』
治療対象となるむし歯は、その進行度によってC1〜C4の4段階に分類されています。Cとは CariesのCです。進行度は、むし歯で生じた穴の深さから判断されます。ですので、歯の構造を理解しておく必要があるのです。
なお、COとよばれる治療対象とはならないものも含めると5段階になります。
「C1」
C1とは、むし歯の穴が、エナメル質にとどまっている状態です。穴があいている以外に、自覚症状はあまりありません。この段階で見つかれば、痛みを感じずに治療できる可能性が非常に高いです。
「C2」
C2とは、むし歯の穴が、象牙質に達したおり、なおかつ歯髄腔にまでは及んでいない状態をいいます。穴が象牙質の表層でとどまっているなら、痛みを感じずにむし歯治療を行える可能性があります。
「C3」
C3とは、むし歯の穴が、歯髄腔にまで達したか、もしくはそれに近いところにまで及んだ状態をいいます。この状態に至ると、歯の神経が冷たい物や熱いものにより刺激される様になりますので、痛みを感じるようになります。麻酔の注射をしないとむし歯治療はできません。
「C4」
C4とは、むし歯の穴が大きくなり、歯冠がほとんどなくなってしまった状態をいいます。痛みを感じる時期は過ぎており、歯は冷たい物や熱いものの刺激にはほとんど反応を示さなくなります。その一方、ものを噛むと痛むなど、違う性質の痛みを感じたり、歯茎が腫れたりするようになります。
「CO(シーオー)」
COとは、Caries Observationの頭文字からつけられたむし歯の分類の一つです。字が 似ているのでしばしば誤解されるのですが、C0(シーゼロ)ではありませんので、お間違えのないようにしてください。
このObservationとは、”観察”という意味です。積極的なむし歯治療をこの段階ではあまり行いません。COの段階は、歯の表面に濃い白い部分が生じる脱灰という状態にあたります。この状態であれば、唾液に含まれる成分により自然治癒することが望めるからです。ただし、それにはお口の状態をきれいに保つことができればという前提があります。きれいに保つことができなければ、治療しなければならないむし歯へと進んでいきます。『はじめに』のところで、”自然に治癒することはまず望めません”と書きましたが、”まず”という言葉をつけた意味は、ここにあります。脱灰という段階に限れば、自然に治癒する可能性があるからです。
『むし歯の治療方法について』
「コンポジットレジン充填治療」
コンポジットレジン充填とは、歯の色によく似たコンポジットレジンとよばれる専用のプラスチック製の充填剤をむし歯の穴に詰める治療方法です。一日で終わる上、歯の色に似た詰め物なので、目立ちにくいという利点があります。反面、近年かなり改良されてきたとはいえ、強度に劣る面があり、大きなむし歯には使いにくい欠点があります。
「インレー治療」
インレーとは歯の一部分だけを覆う金属製の詰め物のことで、これを使った治療方法です。コンポジットレジンと比べて、金属製であることにより見た目が目立ってしまうという欠点がありますが、金属できていますので、強度が非常に強いという利点があります。そのために、噛む時に大きな力がかかってくる奥歯のむし歯治療によく使われます。
「クラウン治療」
クラウンとは歯全体を覆いかぶせるタイプの被せもののことです。すなわち、被せて治す治療方法です。基本的には銀歯になります。歯によっては、3/4冠や4/5冠といった、歯の7〜8割ほどの面積のみを被せるタイプの銀歯もあります。
なお、前歯の場合はレジン前装冠という表側をコンポジットレジンを使って白くしたタイプの被せものや、小臼歯という前から数えて4番目と5番目の歯はCADCAM冠という白いプラスチック製の被せものを使うことも出来ます。
「抜髄(ばつずい)」
抜髄とは、歯髄、すなわち歯の神経を取り除く治療方法です。局所麻酔をした上で行なわれます。歯髄を取り除いた後の歯髄腔は、空洞になってしまいます。そこで、根幹充填処置をおこない、ガッタパーチャとよばれるゴムの様な詰め物をして空洞が無くなる様にします。
そのあとは、クラウン治療を行ない再び噛める様にしていきます。
「感染根管治療(かんせんこんかんちりょう)」
感染根管治療は、歯根の治療方法の1つです。抜髄が生きている歯の神経を取り除くことに対し、感染根管治療は、死んでしまった歯の神経、もしくは根幹充填処置が行なわれた歯の歯髄腔の処置を行なう点が異なります。ですので、基本的には局所麻酔は必要ありません。感染根管治療が終わった後は、抜髄と同じく根幹充填処置を行ない、歯髄腔の空洞を埋めてなくします。
そのあとは、クラウン治療を行ない再び噛める様にします。
「抜歯」
抜歯とは、歯を抜く治療方法です。むし歯が深くなり過ぎ、治す余地が無くなった場合に行なわれます。むし歯の治療方法の最終手段です。
『むし歯の各段階における治療方法について』
前述のむし歯の治療方法をどのような歯に行なうかを、むし歯の分類に合わせて説明します。
前歯 | 奥歯 | ||
小臼歯 | 大臼歯 | ||
C1 | コンポジットレジン充填治療 | コンポジットレジン充填治療
インレー治療 |
コンポジットレジン充填治療
インレー治療 |
C2 | C2の場合に、インレー治療にするかクラウン治療にするかは、同じ歯に複数箇所むし歯が出来ていたり、むし歯の面積が広かったりといった条件によって決められます。 | ||
コンポジットレジン充填治療
クラウン治療 (レジン前装冠もしくは3/4冠です。) |
コンポジットレジン充填治療
インレー治療 クラウン治療 (CADCAM冠や4/5冠もできます。) |
コンポジットレジン充填治療
インレー治療 クラウン治療 |
|
C3 | 抜髄 | ||
C4 | 感染根管治療、もしくは抜歯 | ||
CO | 歯磨きの指導
フッ素の塗布やうがい |
『まとめ』
むし歯の治療方法は、むし歯の進行度合いによってさまざまな方法があります。むし歯の進行度合いは、むし歯の穴の深さによって分類されています。
C1やC2であれば、歯の神経を残し、コンポジットレジンを使った即日治療や、インレーを使った治療が選ばれることが多いです。ただし、同じC2でも1つの歯に数カ所むし歯が出来ていたり、むし歯の面積が広かったりすると、クラウンを被せる必要があることもあります。
C3になりますと、歯の神経が刺激されることにより痛みを感じる様になります。ここに至れば、抜髄という歯の神経を取り除く治療になります。
C4にもなれば、抜歯が選択肢に上がってくる様になります。
なお、COであれば、自然治癒がまだ期待出来る状態ですので、この段階での積極的なむし歯治療はあまり行なわれず、フッ素を塗ったり、歯みがきの指導をしてお口の中をきれいにしたりすることが中心になります。
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